意図がないサイズ・アングル・ワークは失敗の前兆!磨くべき技術とは?

プロのカメラマンは常に「技」を磨いています。

僕も見習いの時は、フォーカスの瞬時の合わせ方や、滑らかなズーム・ワークできるように、練習を積み重ねてきました。

さらに明確な意図を持った意味のある画を撮るため、映像理論や人間心理を学んだり、機微を読み取る訓練もしてきました。

これらはすべて「視聴者を惹き付けるため」に身につけなければならないからです。

カメラマンとしての職人技、基本は「カメラワーク」です。

むやみにカメラを振り回していても、良い画は撮れません。

これをおろそかにすると、視聴者を惹き付ける映像は撮れないでしょう。

今回はカメラワークの基本となる「サイズ」「アングル」「パン・チルト」「ズーム」の種類や意味についてお話したいと思います。

目次

サイズは「ロング」「ミドル」「アップ」の3種類が基本

撮影は「場面を切り取る」作業です。

そして切り取った一コマを「カット」と呼んでいます。

ストーリーを紡ぐ上では、ひとつひとつのカットに意味を持たせなくてはなりません。

主な3種類の意味を解説します。

①ロング(フルサイズ)

ロングとは画角の大きいサイズ、画角の広いサイズを指します。

業界用語では「引き画」とも呼びます。

ロングを撮影する目的は「全景」や「全体像」を見せるためです。

全体像が見えないと「そこがどんな場所なのか?」「この物体はいったいどんな姿をしているのか?」こうした疑問が湧いてきて、視聴者が欲求不満を感じてしまいます。

ストーリーには大抵「これから物語が展開される場所」を表すカットが挿入されています。

映画やドラマなどの番組を思い起こして下さい。

例えば、刑事ドラマの場合は警視庁の外観や刑事一課の部屋の全景とか、コミケなどのイベント紹介では会場の全景、旅の番組では観光名所の風景や街の景色などです。

どのような現場でも、その場の環境を説明する「全景」は押さえておくべき必須の映像となります。

また、商品や展示物など「モノ」を紹介する際も、必ず全体像が見たいですよね。

この場合ロングとはあまり言いませんが、物体の全体像をフルサイズで見せることは「画で語る」上では欠かせないパーツとなりますので、必ず撮影しましょう。

②ミドル

ミドルとはいわゆる「中間サイズ」に当たります。

例えば刑事ドラマの場合は捜査員のグループショット、前述のコミケ会場で例えるといくつかの出店ブースが並んでいる様子など、主に現場の状況を説明するカットとなります。

ストーリーの中では前後の「つなぎ役」みたいなイメージです。

③アップ

アップとは、被写体の見せたい部分だけを切り取り、拡大・強調したカットです。

刑事ドラマで例を挙げると、捜査員の真剣な眼差しや地面に落ちた血痕、コミケ会場の場合は個々の商品や出店者が接客している表情などになります。

アップの映像は視聴者の「もっと近くで見たい」とか「細部を見たい」という欲求に応える重要なカットです。

また視聴者の意識を引きつけたり、緊迫感を出したり、感情移入させるための演出としても大変効果があります。

なぜなら人間の視覚ではなかなか見ることができない、非日常的なインパクトがあるからです。

従ってストーリーの中では特に重要なパーツと言えるでしょう。

「アップをいかに撮るか?」ここがカメラマンのセンス腕の見せ所となります。

アングルは「ハイ」「水平」「ロー」の3種類が基本

アングルとは被写体に向けるカメラの角度のことです。

同じ被写体でもアングルを変えて撮影すると、印象がガラリと変わります。

それぞれの効果を理解しておくと、自分のイメージを意図的に再現できるようになります。

①ハイアングル

被写体を「上から見下ろす視点」で撮影することをハイアングルといいます。

ハイアングルで撮影すると、客観性や愛らしさ、弱々しさを表現することができます。

例1)街並みや風景などの俯瞰映像

ビルの屋上や山の頂上など高いところから見下ろすことで、街並みや景色の全体像がわかり、さらに壮大なスケールを演出することができます。

例2)人物や動物

被写体の表情を撮影するのに最適なアングルです。カメラに向かって見上げる子どもや上目遣いの女性が可愛く撮れますので、インスタグラムなどで自撮りする時もハイアングルが多いですよね。

ペットが足元を走り回る姿も飼い主目線で愛らしい姿が撮影できます。

逆に、落ち込んだ人や深刻な状況に陥った人をハイアングルで撮影すると、寂しさや弱々しさを表現することもできます。

例3)料理などの物撮り

お皿に盛った料理などは上から覗くと中が良く見えますので、ハイアングルでの撮影が基本になります。

その他テーブルなどに置いて物撮りする時も然りです。

②水平アングル(目高・アイレベル)

文字通りカメラを水平に向けて撮影するアングルです。

目線の高さで撮影する場合は、「目高」「アイレベル」と呼ぶこともあります。

何を撮影するにしても見ている人に安定感を与えるので、最も基本的なアングルと言えます。

インタビューは目線の高さで撮るのが基本です。

会話するときも同じ目線でお話した方が、落ち着いて相手の話を聞くことができますよね。

③ローアングル

カメラを上向きに傾け、下からあおって撮影することを、ローアングルといいます。

ローアングルで撮影すると凛々しさやカッコよさ、威圧感を表現することができます。

例1)人物

人物を下から煽って撮ると、誇らしげに見えたり、力強く凛々しく見えます。

逆にカメラを見下ろすように撮ると、威圧感が出ます。

例えば巨大な怪物に襲われたとき、見上げると怪物が上からこちらをにらみつけていた…とても恐ろしく感じますよね。

怪物を見上げる自分の目線そのものが、ローアングルの効果と同じと言ってもいいかもしれません。

例2)建物や車

建物や車をローアングルで撮ると、迫力のあるダイナミックな映像になります。

ローアングルは僕が一番好きなアングルで結構使います(笑)

パン・チルト

「パン(パンニング)」とは「パノラマのように見える」を略したもので、カメラを左右に振る撮影技法です。

例をあげると以下のことが挙げられます。

  • 風景など広さや大きさを表現したい時
  • 横長で幅のある被写体のディティールを一連で見せたい時
  • 移動する被写体をフォローする時
  • 被写体の位置関係を見せたい時
  • 視点を横に移動させるイメージを表現する時

カメラワークのコツとしては出だしをゆっくり動かし始め、中間は少しスピードを上げて振り、終わる前に減速しながら止めるようにすると、滑らかで視聴しやすい映像になります。

気を付けてほしいのは、パンの始点(パン頭)とパンの終点(パン尻)のカットを、5秒から10秒間フィックス(固定)で撮影しておくことです。

これは編集を前提にした考え方ですが、上記のように撮影しておくと、①頭のフィックスカットと②お尻のフィックスカット、さらに③パンを使ってワークしたカットの合わせて“3カット分が使える”ので、編集時に画の選択肢が増えるのです。

「チルト(ティルト)」は、カメラを上下に振る撮影のことです。

僕たちは、下から上の動きをパンアップ、上から下の動きをパンダウンと言います。

通称「縦パン」は以下のような時に使用しています。

  • 高層ビルなど縦に長い被写体のディテールを一連で見せたい場合
  • 人物のフルショットのディテールを見せたい場合

ティルトもパンと同じように滑らかに動かすと、内容に則した撮影ができます。

ズーム

ズームはレンズの画角を変化させて、一連のショットで被写体に寄ったり引いたりする撮影技法です。

ズームリングを広角側から望遠側に操作し、狙った被写体に画角を寄せることをズームイン、逆に被写体のアップから広角側に画角を広げて行くことをズームアウトと呼びます。

ズームイン

ズームインは被写体に対し視聴者を引き付ける効果や、ディテールを見せたい時に使います。

特に速いズームインは視聴者に意識を一気に誘導できますし、意図的にインパクトを与えるような表現ができます。

逆にゆっくりとしたズームインで効果的に演出しているのが、テレビ朝日の「ナニコレ珍百景」という番組です。

種明かしの際、ゆっくりと被写体に寄っていくので、最後まで答えがわからないハラハラ感が観る人を引き付けます。

ズームアウト

ズームアウトはある一点から徐々に画角を広げていくことで、スケール感を表現したり、被写体の置かれている環境を俯瞰して見せる効果があります。

例えばある人物がエベレストの山頂にいたとします。

上半身のアップから徐々にズームアウトすると、険しい山の頂上にいる。

このようにカメラワークで見せると、「えっ?この人こんなすごい所に立ってたの?」という驚きを表現することができます。

奥が深い動画制作

いかがでしたでしょうか?

今回紹介したカメラワーク以外にも「フォーカスイン・フォーカスアウト」「ドリーイン・ドリーアウト」など様々なものがあります。

引き出しが多いほど撮影の幅が広がりますので、これから始める方は、カメラワークの基礎を覚えて、色々な撮影に挑戦していただきたいと思います。

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